令和になっても「The Choice Is Yours」が好きだという話。
何年経っても、RHYMESTERの「The Choice Is Yours」が好きです。
◾︎制作当時のインタビュー
宇多丸 災害とか事故とかの歌じゃなくて、それがあって、人の心の中で起こってる病理みたいな歌だから。もっと言えば、3.11後のことを言ってるように聴こえるけど、またいつどこで大きな地震が起こるかわかんないし、それでもまだ同じことを言い続けられるか、みたいなことも考えたんです。奇しくも前のアルバム「POP LIFE」は3.11の前にリリースされたのに、震災以降だからこそ響く曲もいっぱいあって、ちゃんと本質を捉えてれば何が起こっても通用するんだなって実感したんですよね。だから広い意味で解釈できる歌にしたかった。
この曲は、震災当時に起きたことを「Yes/No」で”あなたはどっち?”と書いていたところを、だんだんと、それだけが問題じゃない、もっと根深いと思うようになってできたと。詳しくは記事を読んだり、曲を流して欲しいのだけど「自分たちの選択だよ」ということを丁寧に表現している熱い歌。
つい立ち止まってしまう時や、疲れた時、ちょっと自暴自棄になったり、大変な人たちのニュースを見たり、自分への無力感を感じた時によく聞いている。
◾︎歌詞に込められた想いと、圧倒的技術
歌詞のどこが好きかというと、「いろいろ言っても自分たちの選択なんだよ」というところだろうか。
一見これだけが伝わってしまうと、今本当にしんどい人や何かに巻き込まれた人、理不尽なことを受けている人へはトゲになる。だが彼らは、そういう人たちを傷つけようと歌っていない。むしろ、「世の中で起きてるトラブルは自分とは無関係である」「どうせ〇〇が悪い」と言い切って見ないフリをする人へ大きなメッセージを投げかける。
はじめに、Mummy-Dの大変にいい声で、具体的な「悪い」とよく言われる人たちを羅列して、「悪い」とはなにか、本当に自分もその大人のひとりとして立った時に、「ラスボスはどこにもいない」と言い切る強さを持ってくる。
「悪いって言われがち」→あるある・わかるかも
「自分もそのうちの一人」→そうなんだ
「ラスボスはいないよ」→へえ
「金か誰かの陰謀かはわかりやすい、それだけじゃないな」→確かにそうかも
んで締めの
騒ぎ出す外野 揺れるガイア 誰がメサイア?誰がライアー?
である。それから、歌詞がほとんどないフックと、メロディーの鼻歌が余白を作る。少し自分の身を考える。そして宇多丸さんへ。
誰が敵 そして誰がフレンド 誰が悪魔 そして誰が聖人(セイント)
誰が得してて誰が許せんと 誰もが目を向いて憂う前途
デマとホントが絶えず転倒 誰の言ってることが今トレンド?
誰のコメント 誰のレコメンド 誰がこの不安解消してくれんの
誰かのせいにしたい?それも限度 誰を犠牲にした?日本全土
次は誰にリスク押し付けんの 誰が落とし前つけんの
そいつは自分たちの選択 マジ面倒 だがそれもできないんじゃもうジエンド
まるで暗闇の中の懐中電灯 未来を照らす君こそがレジェンド
この、二人の歌詞の関係性が好きである。
さっと書くだけでも、「ライアー/敵・味方・デマとホント→トレンド、メサイヤ/聖人(セイント)⇔悪魔」と物凄い関連度と韻と意味合い。どうやって考えるのでしょうか。
意識が高い言葉が多いので、下手すると一方的な”お説教”になってしまうところを、スッと体に入る自然さは、声や技術はもちろんのこと、「前の歌詞へのかぶせ」が丁寧だからだと思う。前の人の存在・発言を無視せずに、それに対してかぶせるところが、お互いの言葉の深みを増して、畳みかけて、言いたいこと以外の不要な情報が入ってこなくなる。そんな感じ。
トラックはもちろんのことよくて、とにかく全てが調和している。
◾︎おわりに
平和な時期には、私たちは見えないものが増えて、忘れてしまうのかもしれない。どんなに幸せな時期も過ぎ去ってはまたやってきて、どんなに似ていたとしても、全く同じ季節やものごとが訪れることはない。
歌詞の中に「誰を犠牲にした?日本全土」「次は誰にリスク押し付けんの」とあるのだけど、誰もが報われない・感謝されない社会は本当にしんどいなと思う。「人のせい」ではなくて「社会の構造のせい」なのかもしれないと最近思う。そしてその一粒を自分が担っていること。
自分の頭で考える余裕もなく、演出されたもの・他者からの評判や扱いを見て、その人や物事を「良い・悪い」と判断する人々も多いように思う。それは自分に無関係と思われることへのエネルギーをショートカットする必要があるからだ。全てに関わり、全てに悩み、全てを都度判断するには、私たちは忙しすぎる。
でも常にフレッシュでいたいなと思う。だから私は、この曲を聴く。定期的に。思い出したように。